猫とネコとふたつの本棚野生のネコ科:小説>戸川幸夫「虎は語らず」 
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「 虎は語らず 」
戸川幸夫動物文学セレクション2
戸川幸夫著(とがわ ゆきお)
小林照幸監修(こばやし てるゆき)

ランダムハウス講談社(文庫版)
2008年発行   NDC:913.6
ISBN : 9784270101940

 

 

【推薦:管理人】

戸川幸夫の描く動物は、どれもかっこいい。
厳しすぎる大自然の掟に逆らうことなく、自分の運命を超然と受け止めながら、決して諦めず悲観もせず、知恵を振り絞り力を振り絞って、堂々と生きていく。
悟っている。
迷いがない。
生きるとはこういうことなのだ、と、あらためて思う。

さて。

この本に収録されているのは全12編。
そのうちネコ科が出てくるのは、表題の『虎は語らず』と、ライオンを扱った『爪』の2編である。

『虎は語らず』

貧しい村に、トラが出た。
インドの、深いジャングルに囲まれた小さな村だ。
トラは以前、女の子をさらったことがあったという。そして今度。最初は牛を襲った。それから、村娘ムリアが行方不明になった。
日本人画家だが、ハンターとしても有名なヤマモトが、トラ退治の要請を受け、仕方なく引き受ける。
ところが村人たちにトラの情報を尋ねてもロクな答えが返ってこない。わかったのは「1年ほど前に、この地方で数人の村人が虎に殺されている」という情報だけ。ヤマモトはなんとなく違和感を感じつつも、マチャン(トラを待ち伏せする足場)に登り、トラを待つことにする・・・

『爪』

啓介は、サーカスの猛獣使い。操っているのは、7頭の見事に発達した雄ライオンたち。啓介の最も得意とする芸は、「ライオン・ベッド」と呼ばれるものだった。5頭の雄ライオンを床に並べ、自分がその上に横になり、さらに巨大な2頭のライオンに添い寝させる、という荒技だ。
7年間、一緒に暮らしてきたライオンたち。啓介には従順だった。いままで、一度もトラブルを起こしたことなぞなかった。
ところが、今日に限って、ネロの鋭い鉤爪が、啓介の肉に食い込んできた・・・!

 

●他に収録されている作品も、いずれも名作ばかりだ。

『羆風(くまかぜ)』

1915年12月、北海道は三毛別(さんけべつ=現・苫前町三渓)で実際におこったヒグマ襲撃事件を題材に書かれた短編。
野生動物による、日本最大の惨劇。わずか2日間で、胎児を含む死者7人、重傷者3名(うち1名はその後、後遺症で死亡)、さらに、この事件以前に殺された女性3名も多分同じヒグマのしわざという。
戸川幸夫は、しかし、単なるパニック小説では終わらせない。この事件を引き起こした根本的な原因、人の入植や大自然の掟について、冷静かつ客観的に語る。

『ゴリラ記』

動物園に、初めてゴリラがやってきた!まだゴリラという動物が理解されていない時代。人々はゴリラといえば「狂暴」のイメージしか持っていなかった。ゴリラの真の姿を知って欲しい。動物園飼育員の、人知れぬ苦労を描く。

『鰭王(ひれおう)』

マッコウクジラの一生を描いた力作。当時は日本でもまだ捕鯨が行われていた。巨大な鯨と、広大な海と、無骨な捕鯨手。雄大な作品だ。

『加奈のマングース』

沖縄には、ハブという猛毒蛇がいる。このハブ退治に、マングースが導入された。
加奈は、ある日、そんなマングースの子供を見つける。近くにはハブに殺された母マングースの死体。加奈は子マングースを連れて帰り、大事に育て始める。

『飴色角と三本指』

ニホンカモシカと、それを追うマタギの話。
天然記念物に指定されてからも、ニホンカモシカは一部で狩り続けられていた。密猟である。カモシカもうかうかと狩られてはいない。カモシカとヒトが、命を賭けて、知恵と体力を競う。雪山を登るふたりの息づかいまでが聞こえてきそうな作品。

『カミさんと鼠』

これは、町の中のごく普通の家におこった、ごくふつうの(?)ネズミ騒動である。さて、ネズミが勝つか、カミさんが勝つか?

『象』

なんとも壮大なスケールの「推理小説」!見事な解決!おもしろい!

『ゴキブリの洋行』

あの戸川幸夫が、ゴキブリが嫌いだとは夢にも思わなかった。笑ってしまう。それにも増して、このゴキブリのたくましさよ。
ところで私は、衛生上の観点からはゴキブリは困るが、ゴキブリという虫そのものには、なんら嫌悪感を持っていない人間です(笑)。

『老醜』

老醜、というタイトルだが、私はこのオジロワシに「醜」は感じられない。「老大」と言いたい。ただ見事である。見習いたい。

『名人ハブ源の左足』

世界一の猛毒蛇、といえば、キングコブラを思い浮かべる人が多いかもしれない。が、コブラの毒は神経毒、女王クレオパトラもコブラの仲間に胸を噛ませて眠るように死んでいった。
それに対し、ハブの毒は出血毒である。ひとたび咬まれれば猛烈な痛みと腫れと壊死で七転八倒の苦しみ、咬まれて恐いのはハブである。
そのハブを獲る名人がいた。
自らハブに咬まれて体内免疫を作ろうとするほどの執念。それほどの男が、なぜ左足を失うことに?

(2008.6.10.)
★面白さ4:お勧め度4

*****著者プロフィール(本著より)*****
戸川幸夫(とがわ ゆきお)
1912年、佐賀県生まれ。旧制山形高校(現・山形大学)の理科に入学。1937年、東京日日新聞社(現・毎日新聞社)に入社。1955年、初の小説『高安犬物語』が直木賞受賞。以後、動物小説を次々と発表し、「動物文学」をジャンルとして確立。1965年には西表島でイリオモテヤマネコを発見。従軍記者経験から、戦記文学も数多く残した。紫綬褒章、三等瑞宝章受章。2004年5月没。

■監修 小林照幸(こばやし てるゆき)
1968年、長野県生まれ。明治薬科大学在学中の1992年、『毒蛇(どくへび)』で第1回開高健奨励賞を受賞。1999年、『朱鷺(トキ)の遺言』で、第30回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞(当時)。信州大学経済学部卒。明治薬科大学非常勤講師(生薬学担当)。著書に『闘牛の島』『野の鳥は野に 評伝・中西梧堂』、『ドリームボックス 殺されていくペットたち』、『熟年恋愛革命 恋こそ最高の健康法』など多数。
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